3月23日 夜10時30分
どういうことだ。
「カルド・ヴェルデ」が閉まっている。
年中無休のはずなのに。
この店に来る為の 3度目のリスボンなのに。
定休日が出来たのか?それとも、つぶれたのか?
高級なファドクラブは、最低料金(2000円~3000円)があるが、
「カルド・ヴェルデ」は、コーヒー一杯でもファドを聴かせてくれる。
採算が合うのかと思っていたが、つぶれたのかな。
この店が気に入っていた理由は、ギタリスト(ポルトガルギター奏者)の
フェルナンド・シウバだ。
3年前かみさんとリスボンに初めて来て、4件のファドクラブをはしごした。
ガイドブックに載っている有名店ばかり。
その中の「ファイアー」という店で、
ポルトガルギター(マンドリンのような形と音のファドには欠かせない楽器)を
弾いていたのが、フェルナンド・シウバだった。
歌手は忘れたが、彼の演奏は素敵だった。
ギターラ(ポルトガルギターのこと)は伴奏楽器だから、
歌よりも目立つべきではないのかもしれないが、
彼はソリスト指向なのだろうか、特に間奏部分はよく目立った。
しろうとの私には、とても気持ちよかった。
1年後、今度はひとりでリスボンに来た。
夜10時にチェックインして、すぐにタクシーに乗り、
ファドクラブに連れて行ってくれと頼んだら
「ルーゾ」という、ガイドブックにも載っている高級店に行ってくれた。
しかし面白くなかった。
店は確かに高級な雰囲気だったが、ファドは歌も演奏も期待しすぎている私には、
平凡に聞えた。
明日はガイドブックに載っていない店を探そう…と思い
翌日、夜、ファドクラブが集中するバイロ・アルト地区を歩いていたら、
堺正章さんのような客引きに店に引きずり込まれた。
店の名は「カルド・ヴェルデ」。
なんとあのフェルナンド・シウバが弾いている。
明らかに左遷だ。
しかし、いい音だ。
よく目立つ。
しかも歌手がよかった。
あの客引きも歌手で、名前はアントニオ。
歌い方も、堺正章さんによく似ていた。
しかし、何といっても女性歌手のピエダード・フェルナンデス。
この人の歌に惚れ込んだ。
美人だからではない。
とにかくうまい!そして声がいい。
ファド界の美空ひばり-アマリア・ロドリゲスよりも声もいいし歌もうまい
(私のしろうと感覚です)。
それから8日間毎日通った。
アントニオも「シャタ、シャタ」と呼んで、私をからかって客の笑いをとっていた。
私が日本語で歌っていると言ったら、最終日には歌わせてくれた。
シウバの伴奏で歌える。
あまりの緊張に足が震えた。
あれから1年半。
店が閉まっている。
成田の火災事故で、飛行機が ナリタ→パリ→リスボンの予定が
ナリタ→関西空港→パリ→リスボンになったにも関わらず定刻に着いた。
奇跡だ。なのに店が閉まっている…。
がっかりしてトボトボと歩いていたら、客引きに呼び止められた。
ダニー・デビートの弟のような男だ。
10時半を過ぎたから16ユーロ(2000円)でいいと言っている。
みると1年半前にがっかりした「ルーゾ」だ。
まぁいいさ、がっかりついでだ、入ろう。
一番後ろのテーブルに座らされた。
演奏が始まった。
エッ?
あのギタリストはフェルナンド・シウバだ。
なぜ、ここに?
やはり「カルド・ヴェルデ」は潰れたのか?
歌手は年配の女性で、歌手の宿命だが、のどを痛めているようだ。
ファド独特の、うなりやシャウトがきかない。
それを除けば、相当なテクニックはありそうだ。
だから、惜しい。
シウバのギターばかりに気がいってしまう。
2人目は、声も体もボリュームたっぷりの若い女性だった(名前はヨラちゃん)。
次はそこの看板歌手らしい、年配の男性。余裕でこなしていた。
「シウバを知っている」とボーイに言ったら、連れて来てきれた。
彼も覚えていて、男性歌手に「日本語で歌う客だ」と紹介していた。
1曲歌わせるかという話になったが、そこは高級店、無理だということになった。
と、今の部分は、2人の会話を私が勝手に想像しただけなので、あてにはならない。
シウバに会えた事を感謝して、ホテルに帰り35時間ぶりに眠りについた…。